古都の食文化が育んだ宝石:京漬物の魅力を再発見
古都・京都の風情を彩る京漬物。その歴史は古く、江戸時代にはすでに庶民の食卓に欠かせない存在でした。塩だけで漬け込まれたシンプルなものから、数種類の野菜や果物を組み合わせて作られる複雑な風味のものまで、その種類は多岐にわたります。近年、世界中で注目を集めているヴィーガン食。動物性食品を一切使用しないこの食スタイルは、健康志向の高まりとともに、ますます広がりを見せています。
一見すると異なるように思える京漬物とヴィーガン食ですが、実は共通点が多く存在します。どちらも発酵という自然の力を利用し、食材の旨味を引き出すという点で共通しています。
今回は、京漬物が持つ歴史や栄養価、そしてヴィーガン食との意外な共通点、さらには現代の食卓における京漬物の役割について深く掘り下げていきます。
京漬物の魅力
京漬物の歴史は古く、平安時代から食されていたという記録も残っています。豊かな水と肥沃な土地に恵まれた京都では、古くから野菜栽培が盛んでした。特に、寺院文化の影響もあり、精進料理の一環として漬物が発展してきたのです。
京都の風土と深く結びついた京漬物は、四季折々の京野菜を最大限に活かしています。京野菜は60種類以上認定されており、さまざまな種類の品質の高いお漬物が楽しめます。京漬物は野菜本来の素材を最大限活かすためにあっさりとした上品な味わいで、素材の持ち味を活かしたシンプルな味付けが特徴です。
京漬物は単なる漬物にとどまらず、京都の食文化を象徴する存在です。地元で採れた新鮮な野菜を無駄なく使い切るという、サステナブルな食生活の考え方が根付いています。また、京漬物の製造過程では、化学調味料や保存料はほとんど使用されず、自然の力で食材を保存するという伝統的な製法が受け継がれています。
※味付けにかつおだしを使用しているものもありますのでご注意ください。
京の三大漬物
たくさんの種類がある京漬物ですが、なかでも「すぐき漬」「千枚漬」「しば漬」は「京の三大漬物」とも呼ばれ、みやげものとしても喜ばれる品々です。
1. 千枚漬(せんまいづけ)
聖護院かぶらを薄くスライスし、昆布と一緒に漬け込んだ漬物です。その名の通り、千枚にも見えるほど薄く切られたかぶらの美しい層が特徴です。あっさりとした上品な味わいで、口の中でとろけるような食感が楽しめます。
2. すぐき漬け
すぐき菜という葉菜を、塩と米ぬかを使って乳酸発酵させた漬物です。独特の風味と歯ごたえと乳酸発酵によって出る酸味が特徴です。乳酸菌が豊富で、腸内環境を整える効果も期待できます。
3. しば漬け
茄子やキュウリなどの野菜を、赤紫蘇の葉で塩漬けにした漬物です。紫蘇の香りが爽やかで、食欲をそそる一品。ご飯のお供はもちろん、お酒の肴としても人気があります。
京漬物を楽しむ
京つけもの 大安
京都には今も街の至る所にお漬物屋さんがあり、年中多彩な旬の味が並んでいます。スーパーに並ぶお漬物の中には、大量生産・長期保存などのために、人工調味料、保存料などの添加物が使用されている場合もありますが、素材や環境に配慮しながら昔ながらの製法を守るお漬物屋さんがあります。それが今回ご紹介する「京つけもの 大安」です。
大安のおつけものは野菜にこだわることはもちろん、天然の調味料
また、漬物作りで出てしまう野菜の皮や芯などの通常は廃棄されてしまう残渣を、そのまま捨てるのではなく、「発酵化粧品」を開発し活用されています。地球環境やリサイクル、SDGsの意識や企業の努力は、循環型社会の実現に貢献しています。
阿古屋茶屋
京都・清水寺周辺の二年坂に位置する「阿古屋茶屋」は、京漬物好きにはたまらないお店として知られています。約20種類もの京漬物が食べ放題のお茶漬けバイキングが人気で、観光客はもちろん、地元の人々からも愛されています。
阿古屋茶屋の魅力は何と言っても、その豊富な種類の京漬物です。赤カブ、壬生菜、すぐきなど、京都ならではの季節の味が楽しめます。一つ一つの漬物が丁寧に作られており、素材本来の味を引き出しています。
栄養満点!
植物性の発酵食品で、健康美人を育む京漬物の力。
漬物はその爽やかな風味だけでなく、私たちの健康や美容にも期待できます。
漬物には植物性乳酸菌が豊富に含まれており、腸内の善玉菌を増やし悪玉菌を抑制する働きがあります。腸内環境が整うことで、免疫力の向上や美容にも良い影響を与えてくれます。漬物は乳酸菌と塩の相乗効果によって、より多くの栄養価と風味を作り出しているのです。そして美味しい野菜で食物繊維やカルシウムなどの栄養を取れるのも嬉しいポイントです。
京漬物を食卓に取り入れることで、私たちは伝統的な食文化に触れるだけでなく、健康な体づくりにもつながります。
※ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌は動物性ですが、漬物に含まれる乳酸菌は植物性で胃酸に強く腸まで届きやすい特徴があります。
最後に
いかがでしたでしょうか?京漬物は、単なる漬物ではなく、京都の歴史と文化が育んだ食の宝です。植物性食品を主体とし、発酵という自然の力を利用して、食材の旨味を引き出す漬物は、現代でもその魅力が再評価されています。京都の街で長い歴史の中育まれてきた独特な食文化は、改めて現代に学ぶものが多いように感じています。
京都を訪れた際は、ぜひ様々な種類の京漬物を味わってみてください。京漬物の奥深さを体験し、京都の食文化に触れてみませんか?
今後も、京漬物のような私たちの日常生活に潜む何気ない京都のサスティナブルで植物由来の食文化を今後も発信していければと思います。
執筆:久田愛理
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top画像出典
農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」