ミシュラングリーンスターが拓く未来
ミシュランガイドは、1926年にフランスで創刊され、自動車用タイヤメーカーであるミシュランが、自動車旅行者のために宿泊施設や飲食店の情報を提供するガイドブックとして始まりました。やがてその厳格な評価基準と信頼性が高く評価され、現在では世界中の料理人やレストランにとって名誉な存在となっています。
ミシュランの星は、最高の食事体験を提供するレストランに与えられ、以下の基準で評価されます。
1つ星 「非常に良い料理」
2つ星 「遠回りしてでも訪れる価値がある」
3つ星 「特別な旅をしてでも訪れるべき」
これらの評価は、料理の美味しさだけでなく、サービス、雰囲気、コストパフォーマンスなど、食事全体の体験を総合的に評価して付けられます。
ミシュランガイドの星は、美食の象徴として広く知られていますが、持続可能な取り組みを行うレストランに与えられる特別な賞「ミシュラングリーンスター」をご存知ですか?
ミシュラングリーンスターとは?
2020年に初めて発表された「ミシュラングリーンスター」は、環境保護や持続可能な食文化に取り組むレストランに贈られる特別な賞です。これは、料理の美味しさだけではなく、地球環境への配慮や持続可能な経営方針を評価するために導入されました。
ミシュラングリーンスターに選ばれる明確なルールはありませんが、レストランは、地元の農家から食材を調達したり、食品廃棄物を堆肥化したり、使用する使い捨てプラスチックの量を削減したりするなど、環境に優しい方法をビジネスに取り入れるようなお店が、ミシュランのグリーンスターを獲得しています。
近年、地球環境の保全や持続可能な未来に向けた行動に世界が注目しており、ミシュランガイドもこれらの活動に関心を寄せています。食材の生産から消費、調理法、そしてレストランの経営方針に至るまで、食と地球環境の保全は密接に結びついてるからです。
ミシュランガイドは、この持続可能性の高いガストロノミーを推進するシェフやレストランを応援し、彼らの取り組みを広く認知させることで、より持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
ミシュラングリーンスターを獲得している国
ミシュラングリーンスターは、2020年の導入からわずか数年で世界中に広がり、現在500店以上のレストランが受賞しています。このうち100店近くがフランスにあり、ドイツやイタリアといったヨーロッパ諸国が先駆けてグリーンスターを獲得しています。日本でも、東京や京都を中心に持続可能な食文化をリードするレストランが注目されています。現在(2024年)京都は、8つのレストランが選ばれています。
京都の新しいミシュラングリーンスターを紹介
2024年にミシュラングリーンスターに選ばれた京都の2軒です。
京都は、自然との調和を重んじた文化が深く根付いている都市です。特に、精進料理といった伝統的な食文化が持続可能なガストロノミーと密接に関係しており、京都のレストランはその独自の魅力を世界に発信しています。
「ラ ブッシュ/la bûche(フランス料理)」
京都大原の豊かな自然環境を活かした料理を提供するレストランです。近隣の生産者や猟師から食材を仕入れ、山野草を中心にコースを構成。森林を活性化させるために薪火を使い、自然派ワインに特化して環境を考える生産者を支援しています。「篩月/Shigetsu(精進料理)」
その日市場で仕入れた食材で献立を組み立てています。自然の摂理に従い素材を選ぶことで、過剰生産を抑えフードロスを防いでいます。調理で出た野菜の端材は乾燥させて堆肥に変え、畑に戻し自然の循環を促しています。精進料理を通じて限りある食材の大切さを伝えています。
ミシュラングリーンスターの探し方
ミシュラングリーンスターを受賞したレストランは、各お店の紹介ページに、オーナーや料理長の言葉で、サステナブルな取り組みや想いが記載されています。それらのコメントを見ると、地元で採れる旬の食材を大切にし、自然との調和を重んじた料理が提供されていることがわかります。(引用元「ミシュランガイド グリーンスター獲得レストラン一覧」)
“野菜と穀物を使う精進料理は環境に優しいです。肉や魚を使わないため、畜産による二酸化炭素の削減、枯渇する水産資源の保護に繋がります。食材を無駄にしない思想から端材は堆肥に。献立を通して自然のありがたみを感じてほしいです。”
— Takuo Kotani
“私たちは、創業地の京丹後で無農薬栽培の稲作をします。料亭で供した蟹殻は水田にまき、養分として土に還します。田植えや稲刈りは従業員も手伝い、収穫した米は各店舗へ。地元に森を蘇らせるため植樹して「和久傳ノ森」を形成しました。”
— Daisuke Ogawa
グリーンスターを受賞するレストランは、単に美味しい料理を提供するだけでなく、食を通じて環境保護や地域社会の持続可能性にも貢献しており、その姿勢は食の未来に対する新しい価値観を広めています。
この文章を読んで感じるのは、オーナーや料理長の方々がそれらを目新しい価値観として取り組んでいない点です。その方が、その店で、京都で、古くから大切にされている価値観や日頃から心がけているような想いが現れているように感じました。
最後に
ミシュラングリーンスターは、ヴィーガン店への賞という意味ではありません。食と地球環境の保全は密接に結びついており、ヴィーガンは1つの確かな選択肢です。重要なのは、作り手がどのように持続可能な形で地元の食材を使用し、食品廃棄物を削減し、自然と調和した経営を行っているかという点です。また消費者にも食材や自然への敬意、未来への責任があります。
ミシュラングリーンスターは、私たちにその重要性を再確認させ、食の選択が環境にもたらす影響に対する認識を広げてくれます。私たちが日々の食生活で選ぶ一つ一つの料理が、持続可能な未来にどう繋がっているのかを考えるきっかけになると感じています。
執筆:久田愛理