タンパク質が2050年に不足する?プロテインクライシス
プロテインクライシスとは?
タンパク質は、私たちの健康を支える重要な栄養素です。しかし、2050年までに世界人口が97億人に達すると予測される中(国連による推計)、十分なタンパク質を供給することが難しくなる可能性があります。この問題は「プロテインクライシス(タンパク質危機)」と呼ばれ、世界の食糧問題の一端を担う深刻な課題として注目されています。肉を中心とした食生活は、家畜の飼料となる穀物の需要が増え、森林伐採や環境汚染といった問題を加速させています。
プロテインクライシスがもたらす影響
タンパク質不足がもたらす影響は計り知れません。プロテインクライシスは食糧問題にとどまらず、地球環境にも大きな影響を与えます。
食料の供給不足:
人口増加に伴い、タンパク質の需要が供給を上回り、食糧不足を引き起こします。
環境破壊:
家畜の飼育には大量の水や土地が必要であり、森林伐採や水質汚染につながります。また、家畜によって排出されるメタンガスは地球温暖化を加速させる要因の一つです。
経済格差の拡大:
食料価格の高騰により、貧困層の食生活がさらに厳しくなる可能性があります。栄養不足などを引き起こす問題も出てきます。
プロテインクライシスを防ぐには?
ではこの危機を防ぎ、持続可能な食生活を実現するためにはどうすれば良いのでしょうか?
植物性タンパク質の代表例:大豆
タンパク質は、動物性と植物性の2種類に分けられます。
動物性タンパク質とは、動物性の食品(肉や魚、卵や乳製品など)に含まれるタンパク質のことです。一方植物性タンパク質は、植物性の食品(穀類や豆類、きのこ類、海藻など)に含まれるタンパク質です。
植物性タンパク質の代表例として挙げられるのが大豆です。大豆の生産に必要な水の量は牛肉の約8分の1であり、さらに大豆から得られるタンパク質量は牛肉の約2倍とされています。少ない資源で高い栄養価を提供できる大豆は、環境負荷を軽減しながらタンパク質を供給する必要不可欠な食品の一つです。
大豆は水や土地の利用効率が高く、タンパク質含有量も豊富です。豆腐や味噌などの伝統的な食品だけでなく、近年では大豆ミートなど、さまざまな形で食卓に並ぶようになりました。
私たち一人ひとりが、肉中心の食生活から植物性食品や代替タンパク質を少しずつでも取り入れる方向へシフトすることも、持続可能な食生活の実現につながります。
他にはどんな植物性タンパク質がある?
穀物、豆類、きのこ類、海藻など、植物性タンパク質は多種多様です。日本の伝統的な食品である麩や豆腐も、植物性タンパク質が豊富な食品として再評価されています。植物性たんぱく質が豊富な麸は、昔から殺生禁断の僧侶の貴重なたんぱく源として珍重されていました。脂肪分が少なく低カロリーで、現代のヘルシー志向にも合致する食品です。
他にも、近年注目を集めている新しいタイプのタンパク質源であるマイコプロテインがあります。菌類の一種である糸状菌を培養することで得られるタンパク質で、その特徴的な風味と食感から、代替肉として注目されています。日本の発酵技術を活用したマイコプロテインも、今後の可能性を秘めています。
食品ロスの削減
タンパク質に限った話ではありませんが、食品ロスを削減することもプロテインクライシスを解消していくための鍵となります。生産から消費に至るまでの過程で廃棄される食品の量を減らすことで、限られた資源を最大限に活用することが大切です。
最後に
2050年まであと25年。2050年に向けて、私たちの食卓に並ぶタンパク質はどのように変化するのでしょうか。プロテインクライシスは、未来の食糧問題を象徴する課題の一つですが、それを解決するには今の私たち一人ひとりの問題意識や消費行動にあると思います。
過去のコラムに麩の魅力についての記事もご覧いただけます(記事はこちら)。今後、マイコプロテインなどの新技術を活用したタンパク質供給について、さらには日本の良質な素材を使った食品など、さまざまな角度から食の未来について探究していきたいと考えています。乞うご期待ください。
執筆:久田愛理(2025/01/08)