
京都を拠点に、コーヒーかすを活用したきのこ栽培を行うスタートアップ、RE:ARTH(リアース)。一見すると小さな活動に見えるかもしれませんが、そこには「本当に豊かな社会とは何か?」という深い問いと、持続可能な未来への挑戦が込められています。
本記事では、KYOTOVEGANメンバーズでもあるRE:ARTHの創業者・倉橋さんの、原体験から始まり、なぜ「食」や「循環」に可能性を見出したのか、そして京都という土地で始まった実践について、じっくりと紐解いていきます。
アフリカでの経験が教えてくれたこと。本当に豊かな社会とは?
RE:ARTHの創業者・倉橋さんは、大学でアフリカの政治学を学ぶ中でアフリカの社会や経済に興味を持ちました。留学先で見た開発援助の現状に疑問を感じ、「真の開発とは何か」を考えるようになったと言います。
「アフリカでは、家族との時間を大切にしながら生きる人々の姿に触れました。その一方で、先進国の外部からの価値観が必ずしも現地の人々の幸せにつながっていないことにも気づきました。」
開発援助という名のもとに、価値観や文化が失われていく現実も目の当たりにします。援助によって作られたインフラが適切に活用されていない現実や、持続性のない開発のあり方でした。この経験が、「大量生産・大量消費を前提とした現代の経済システム」に対する意識を大きく変えることになります。
そしてこの経験や考えが、RE:ARTHの理念へと繋がっていきます。
「食」は、誰もが関わる普遍的な営み
アフリカでの経験を経て、「人はどんな社会においても、食べて生きていく」という当たり前の事実に倉橋さんは立ち返ります。
「経済や環境の仕組みは複雑でも、“食”はすべての人に共通する営み。だからこそ、持続可能なかたちで生産し、消費し、循環させていく仕組みが必要だと感じました。」
大きなスケールで環境や政治を学び、考えてきた倉橋さんだからこそ、自分にできることは何かを模索し、食品廃棄物を再活用する方法として、コーヒー粕を使ったきのこ栽培にたどり着きました。
京都からはじまる、伝統と循環の新しいかたち
RE:ARTHが拠点を置くのは、伝統と革新が息づくまち・京都。RE:ARTHが拠点を置く京都は、数百年年以上続く老舗企業が数多く存在し、持続可能なビジネスの土壌があります。それは、目先の利益を追求するのではなく、伝統を守りながら、自分たちの価値観を大切にするという京都ならではの文化です。
さらに、京都は意外にも日本一のコーヒー消費都市。つまり、コーヒー粕の廃棄量も膨大です。こうした地域特性を活かし、市内のカフェなどと連携しながら、コーヒー粕の回収・きのこ栽培に取り組んでいます。コーヒーからきのこへ、そしてそのきのこを食卓へと届けることで、地元に根ざした循環の輪をつくり出しているのです。
小さなプレイヤー同士がつながり、地域資源を循環させるモデルがどんどんと広がってきています。
「ブルーエコノミー」という考え方
RE:ARTHの活動は、単なるリサイクルの枠にとどまりません。その根底には、地球の自然や生態系の仕組みから学び、持続可能な社会の構築を目指す「ブルーエコノミー」の思想があります。
ブルーエコノミーは、環境に配慮した経済を目指す「グリーンエコノミー」としばしば比較されます。グリーンエコノミーが、ダムやメガソーラーといった大規模なインフラ整備を通じて経済成長と環境負荷の軽減を両立させようとするのに対し、ブルーエコノミーはもっと身近な場所から、小さな循環を実践していくことを重視します。
「たとえば、家で電気を発電するようになれば、“自分で生産して、消費している”という感覚が芽生えますよね。すると、自然と“責任”も生まれる。つまり、“環境にいい”だけではなく、“自分ごとになる”ことが大切なんだと思います。」
その言葉に象徴されるように、RE:ARTHの活動は私たちの日常と地続きです。コーヒーを淹れた後に出る「粕」も、RE:ARTHの手にかかれば再び価値ある資源に生まれ変わります。日々の暮らしの中で捨てていたものを、自らの手で循環させる——それは、環境への意識を育むだけでなく、私たちが生きる社会や経済の構造そのものへの理解を深めるきっかけにもなります。
普段、私たちは消費の“その先”を知る機会がほとんどありません。けれども、資源がどのように生まれ、どこで使われ、そしてどう再利用されるのかを知ることは、「持続可能な社会」を考える上での第一歩となるのではないでしょうか。
一方で、こうした循環型ビジネスは、日本の現行の法制度ではまだまだ難しい面もあります。たとえば農業や廃棄物に関する規制が時代に取り残されており、新規事業者が自由に動きづらい現実もあるのです。
循環型ビジネスの難しさと、これからの展望
「廃棄物の扱いにはさまざまな法律が絡んでいて、新しく事業を始めるには高いハードルがあります。だからこそ、行政や自治体との連携が必要不可欠。制度そのものを柔軟にしていく取り組みも、今後は重要になると考えています。」
とはいえ、制度だけに頼るのではなく、「まずは自分の身の回りから始めること」を大切にしたいと倉橋さんは語ります。自分が捨てていたものに価値を見いだすこと。地域の循環に自分自身が関わること。その積み重ねが、やがて社会の変化につながる——RE:ARTHはそう信じて、一歩一歩、地に足のついた活動を続けています。
最後に
RE:ARTHが描く循環の輪は、まだ始まったばかりです。しかしその活動は、着実に広がっています。RE:ARTHの挑戦から学び、それぞれの場所で「自分にできること」を実践していく。そうすることで、より持続可能で、豊かな社会を共に築いていくことができるのではないでしょうか。
わたしたちKYOTOVEGANも、メンバーズの輪をはじめとして、同じように地域の資源や想いをつなぎながら、このやさしくて力強い輪を、もっと広げていきたいと思っています。
インタビュー・執筆:久田愛理
KYOTOVEGAN は、
・生物多様性を大切にします
すべての生きものが互いに違いを活かしながら、つながり調和していることを意識して活動します。
・ネイチャーポジティブを目指します
Nature Positive (自然再興)自然と共生する社会の達成に向け、社会や経済の活動によって、自然生態系の損失を食い止め回復させていく行動をし、仲間を応援します。