「飛び恥」から考える──移動とエネルギーのこれから

突然ですが、一つクイズを出してみたいと思います。
自動車や飛行機など、人が何かによって移動する時、絶対に欠かせないものはなんでしょうか。
車体でしょうか、機体、運転手、はたまたパイロットでしょうか。
── 答えは「エネルギー」です。
私たちが日常的に行っている移動の背後には、
道路、燃料、発電、整備など、膨大なエネルギーインフラが存在しています。
たとえばガソリン1リットルを燃やすと、約2.3キログラムのCO₂が排出される。
小さなドライブ一回でも、その積み重ねが地球の気温を押し上げる要因となっています。
「移動する」という行為は、私たちが思う以上に多くのエネルギーに支えられているのです。
「飛び恥」という問い
2010年代半ば、スウェーデンで“Flight Shame(飛び恥)”という言葉が生まれました。
気候危機が深刻化するなかで、飛行機に乗ること自体への倫理的な違和感を示す言葉です。
CBSの調査(2023)によれば、ヨーロッパでは27%の人が「飛行機利用に罪悪感を感じる」と答えています。
実際、航空業界のCO₂排出は世界全体の約2.5%。交通部門全体では15%に達します(IPCC, 2022)。
国際線の飛行機1回の移動は、1人あたり数百キログラムのCO₂を出すこともあり、「空を飛ぶ」という行為が持つエネルギー負荷は決して小さくありません。
むしろとても大きい。
しかし、「飛び恥」という言葉は、単なる罪悪感を促すためのものではないはずです。
むしろ、私たちが“移動”を見つめ直すきっかけとして受け止めたいと思います。
テクノロジーによって便利さが増すばかりだった昨今の社会では、移動は「権利」「自由」と同義のように語られてきました。
しかし、その自由は大量の化石燃料と排出に支えられたものでもあります。
「便利さ」と「持続可能性」をどう両立させるか──
これは現代において、個人の移動手段から国際物流のあり方にまで広がってる重要な問いです。
WRI(世界資源研究所)も、「公共交通の強化が1.5℃目標達成の鍵になる」と報告しており(WRI, 2024)、移動を減らすのではなく、より効率的でサスティナブルに近い手段に置き換えること。
その発想が、次の社会を形づくる出発点になるのだと思います。
ヨーロッパでは夜行列車の復活が進み、日本でもLCCではなく在来線を選ぶ「スローな旅」への関心が少しずつ高まってきているように思えます。
移動のスピードを少し緩めることで、エネルギーを抑えながら、地域や自然とのつながりを再発見する人が徐々には増えてきており、この傾向は今後も続くでしょう(KYOTOVEGANとしても続くことを期待しています)。
循環する移動スタイルへ
「飛び恥」の本質は、“飛ぶことをやめよう”ではなく、“どうすればもっと持続可能に動けるか”という問いにあると考えています。
たとえば、仕事の出張をオンラインで完結させる。週末の遠出をやめ、近場で過ごす。
それだけでも、CO₂排出を大きく減らすことができます。
ヴィーガンの思想が「地球との共生」を問い直すように、移動の選択もまた「地球との共生」を意識する行為です。
車をシェアする、公共交通を使う、自転車で移動する──それらの小さな選択が、社会全体の循環を変えていきます。
最後に
最近、社会学についてのある本を読んでいて、”移動”という人間の営みに焦点が当てられた文章の中で、”飛び恥”という言葉に再会し、このような記事を書くに至りました。
移動の自由を過度に制限するのではなく、よりやさしい移動のかたちを選ぶ。
その選択の積み重ねが、循環する社会を生み出していくのだと思います。
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執筆:村野
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参考文献
CBS (2023). Europeans and Flight Shame
IPCC (2022). Climate Change Report
WRI (2024). Public Transport and Climate Goals
Our World in Data. Aviation Emissions
Greenly. Flight Shaming
The Guardian. “Flight shame is dead?”