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スーパーで手に取る一つひとつの食材には、値札がついています。けれど、その価格は本当に“すべて”を反映しているのでしょうか。

たとえば、安価に手に入る肉や加工食品。そこには大量の温室効果ガス排出、水資源の消費、森林破壊といった環境負荷が伴います。しかしそれらのコストは、消費者が支払う価格には反映されていません。実際、食料システム全体は世界の温室効果ガス排出の約25〜30%を占めるとされており、その中でも家畜の影響は特に大きいと指摘されています。

つまり私たちは、「見えている価格」だけを基準に選択している一方で、「見えないコスト」を未来へと先送りしているとも言えます。

フードタックス(食料課税)」はこの歪みを正そうとする試みです。環境負荷の高い食品や健康に悪影響を及ぼす食品に税を課し、その一方で果物や野菜、全粒穀物など持続可能で健康的な食品の価格を下げる。これは経済学的には「外部性の内部化」と呼ばれるアプローチです。

スウェーデンの研究チームは、「コスト中立的な食品税改革」の効果を検証しました。これは、赤身肉や加工肉、糖分を含む飲料などへの課税を強化する一方で、果物や野菜、魚、全粒穀物を含む製品といった健康的な食品に補助金を与える仕組みです。価格の上昇と引き下げが相殺されることで「コスト中立」となり、個人の週ごとの食費は増えないとされています。

「肉が高くなる=家計が苦しくなる」と、感じる方も多いと思います。でもこの仕組みが目指すのは、負担を増やすことではなく、同じ予算の中で、選択の重心をずらすことです。財布への影響を変えずに、食卓の景色を変えようとしているものです。

この“コスト・ニュートラル(負担中立)”な仕組みは、私たちの支出を大きく変えずに、選択そのものを変える可能性を秘めています。

税は、本当に行動を変えるのか?

では、価格を変えれば人の選択は変わるのでしょうか?

多くの研究では「Yes」と答えています。例えばオランダの研究では、肉への課税(15〜30%)と野菜・果物への補助金を組み合わせることで、医療費の削減、生活の質の向上、数千億円規模の社会的利益につながる可能性があるとされています。

さらに別の研究では、税政策は情報提供よりも強く購買行動を変えることが示されています。これは直感的でもあります。人は「知っている」だけでは変わらない。しかし「価格が変わる」と、無意識に選択が変わる。つまりフードタックスとは、「意識を変える政策」ではなく、“行動を変える環境設計”なのです。

そしてこれは、もはや仮説の段階を超えています。デンマークは2024年、世界で初めて畜産業への炭素税導入を決定しました(実施は2030年予定)。
牛一頭あたり年間約100ユーロ相当の課税です。「個人の選択に任せていたら間に合わない」、そういう現実認識が、制度を動かし始めています。

https://eleminist.com/article/3556   
https://www.nikkei.com/prime/ft/article/DGXZQOCB261UD0W4A620C2000000

「安さ」の再定義

一方で、このような政策には懸念もあります。
肉の価格が上がることで、より安価で栄養価の低い食品へと流れてしまう可能性。また、一国での消費減少が、他国での消費増加につながるというグローバルな問題も指摘されています。

つまり、「価格を操作するだけでは不十分」であり、同時に文化や教育、アクセスの問題にも向き合う必要があるのです。
課税と並行して、農家への転換支援食育をセットで設計してすることも大切で、罰則ではなく、世代とともに移行を支える仕組みとして考えなけばなりません。

 

それでも議論が進む理由

ここまでの複雑さを踏まえてもなお、フードタックスの議論が世界中で進んでいるのには理由があります。それは、「食」が気候・健康・倫理のすべてと交差する領域だからです。エネルギーや交通の脱炭素化が進む中で、食は“次のフロンティア”として注目されています。

「選ばせる」のではなく、「選びやすくする」

ここで、少し視点を変えてみたいと思います。フードタックスは、確かに強力な政策です。
むしろ鍵となるのは、“少しずつでもよりよい選択をしやすい環境をつくること”にあると考えています。
制度が変わるとき、文化が受け皿になります。今回のように食卓の風景を変えるような大きな仕組みが動き出したとき、人々が戸惑わずに新しい選択へと移行できるかどうかは、その社会に「植物性で豊かに食べる」文化がどれだけ根づいているかにかかっています。
KYOTOVEGANが大切にしているのも、まさにこの点です。誰かに何かを強制するのではなく、自然と選びたくなる状態をデザインすること。

それは、日本の食文化が本来持っていた価値の再発見でもあります。「季節を感じること」「素材を活かすこと」「無駄を出さないこと」。精進料理に代表されるように、日本にはもともと植物性中心で豊かに食べる知恵が存在しています。

安いから選ぶのか。美味しいから選ぶのか。身体にいいから選ぶのか。地球にやさしいから選ぶのか。

本来、それらは対立するものではなく、重なり合うもののはずです。食の選択は、個人の自由であるべきです。しかし同時に、その自由は環境や社会の構造に大きく影響されています。もし野菜や植物性の料理が、もっと身近で、もっと魅力的で、そして経済的にも選びやすかったら。私たちの食卓は、そして社会全体は、どのように変わるでしょうか。

食べることは、世界とつながること

私たちが日々行っている「食べる」という行為は、とても個人的でありながら、同時に地球規模の影響を持っています。フードタックスという仕組みは、その接点を“価格”という形で可視化しようとする試みです。しかし、最終的に選ぶのは私たち自身です。

KYOTOVEGANが目指すのは、選択の自由を広げること。食べることが、分断ではなく調和につながる世界へ。

今日の一食を、ほんの少しだけ意識してみる。それは決して大きな負担ではなく、小さな美しい選択かもしれません。その積み重ねが、やがて社会の“当たり前”を変えていく。そう信じて、私たちは向き合い続けています。

執筆:久田愛理

参考文献:

Larsson, J. et al. “Cost-neutral food tax reforms could reduce greenhouse gas emissions and improve health.”
Marlin J. Broeks. “A social cost-benefit analysis of meat taxation and a fruit and vegetables subsidy for a healthy and sustainable food consumption in the Netherlands”
Michela Faccioli. “Combined carbon and health taxes outperform single-purpose information or fiscal measures in designing sustainable food policies”

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