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私たちの日常の買い物は、ただ食料品を手に入れるだけの行為でしょうか? ヨーロッパのスーパーマーケットで見かける二つの表示は、その問いに、少し違う角度から答えをくれるかもしれません。それは、単なる成分表示や価格表示を超え、食と環境、そして健康に対する意識を、消費者の無意識の中にそっと植え付ける役割を果たしています。

「地球に優しい」を語るパッケージ

とあるオランダのスーパーでは、商品パッケージに「100% PLANT AARDIG」という表示を見かけることがあります。直訳すれば「100%植物に優しい」ですが、オランダ語の「AARDIG」は「優しい」の他に、「親切な」「心地よい」といった、より柔らかなニュアンスを複数含んでいます。

これは単に「この商品はヴィーガンです」と伝えるだけでなく、「この商品を選ぶことは、地球に優しく、あなたの心にも心地よい選択ですよ」というメッセージを伝えています。

この表示は、特定の主義や思想を持つ人々だけを対象にしたものではありません。普段、特にヴィーガンやベジタリアンではない消費者も、この穏やかなメッセージに触れることで、「環境に配慮した商品」という選択肢を自然に意識するようになります。

二つの商品で迷ったとき、「この地球に優しい方を選んでみようか」という小さなきっかけを生み出すのです。これは、企業側が一方的に「エコ」を訴えるのではなく、消費者が自らの意志で、より良い選択をするよう促す、巧妙で優しいコミュニケーションと言えるでしょう。

一目でわかる「健康」の羅針盤:ニュートリスコア

もう一つ、ヨーロッパの多くの商品パッケージに表示されているのが「ニュートリスコア」です。これは、食品の栄養価を5段階(A~E)の評価で色分けして表示するシステムです。

Nutri-Scoreは、食品100g(または100mL)あたりの栄養成分を基にして、マイナス要素(控えたい成分)とプラス要素(積極的に摂りたい成分)の点数を計算し、最終スコアを算出します。

最も健康的な「A」は緑色、最も栄養価が低いとされる「E」は赤色で示されます。フランスでは包装食品の約60%に採用されている栄養表示です。ヨーロッパではすでに半数近い商品に導入されており、日々の買い物の中で消費者が自然と健康的な選択をしやすい環境が整っています。

 

Nutri-Score 栄養情報システム(出典:フランス公衆衛生局)

 

このシステムが優れている点は、専門的な知識がなくても、一目で商品の栄養バランスを把握できることです。カロリーや脂肪、糖分、塩分といった「避けたい栄養素」だけでなく、タンパク質、食物繊維、野菜や果物の含有量といった「積極的に摂りたい栄養素」も加味して総合的に評価されるため、よりバランスの取れた食生活をサポートします。

たとえば、数種類のシリアルの中から一つを選ぶ際、味や価格に加えて、このニュートリスコアを参考にすることができます。「今日はBのシリアルにしよう」「Eのものは少し控えておこう」といった具合に、買い物の選択肢に「健康」という新たな基準が加わるのです。

ただ、このスコアだけを過信しすぎるのは禁物です。ニュートリスこあは基本的に同じカテゴリー内での比較を目的としており、肉料理とお菓子といった異なるカテゴリー間でのスコア比較は、本来の意図から外れます。また、伝統的な食品の中には、この「標準モデル」に合致せず、不当に低い評価を受けることがあるという批判もあります。

しかし、複雑な栄養情報をシンプルにまとめることで、多忙な現代人が賢く健康的な選択をするための強力なツールとなっていることは間違いありません。

日常に溶け込む「意識改革」

「100% PLANT AARDIG」や「ニュートリスコア」といった表示は、単なるラベルではありません。それは、消費者が環境や健康について考える、日々の「小さなきっかけ」を創造するものです。買い物のたびに、私たちは無意識のうちに、これらの表示から環境や健康に対するメッセージを受け取っています。

こうした仕掛けがあることで、消費者の「ちょっとした意識」が社会全体の変化につながります。実際、NUTRI-SCOREの導入後、加工食品メーカーはスコア改善のために配合を見直し、砂糖や塩分を減らす努力を重ねていると報告されています。ラベルは単に消費者のためだけでなく、企業の製品開発の方向性にも大きな影響を与えているのです。

日本においても、栄養成分表示や特定保健用食品(トクホ)などの制度がありますが、より直感的で、かつ環境への配慮も含めた、包括的な表示システムの導入は、これからの課題となるでしょう。消費者が商品を選ぶ際の基準が、「価格」や「味」だけでなく、「環境への影響」や「健康への配慮」といった多角的な視点へと広がっていくことは、私たち一人ひとりの食生活だけでなく、社会全体の持続可能性にも繋がっていくはずです。

私たちの選択が未来をつくる

私たちの買い物カゴは、単なる食料品の入れ物ではありません。そこには、私たち自身の価値観や、私たちがどのような未来を望むかが反映されています。ヨーロッパのスーパーに隠されたこれらの「優しい」メッセージは、私たち一人ひとりの小さな選択が、より良い社会へと繋がる力を持っていることを改めて教えてくれます。

今日スーパーで手に取る一つ一つの商品が、明日を、そして未来をつくっていく。そんな視点を持つことができれば、いつもの買い物は、もっと意味深いものになるのではないでしょうか。

執筆:久田愛理

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